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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)149号 判決 1969年2月26日

東京都杉並区上荻二丁目三一番一五号

原告

三浦正治

同区天沼三丁目一九番一四号

被告

荻窪税務署長

久保田廉一

右指定代理人検事

横山茂晴

法務事務官 須藤哲郎

大蔵事務官 半田龍次

同 木村英一

主文

一、原告の各請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

一、被告が、原告に対し昭和四一年一月一八日付でなした昭和三九年分の所得税につき、原告の所得金額を金五七一万五、九七〇円、所得税額を金一六五万四、三四〇円とする旨の更正処分のうち、所得金額金三二一万五、七九〇円、所得税額金五八万四、七八〇円をこえる部分を取消す。

二、被告が原申に対し同日付を以てなした重加算税(金額二七万六、三〇〇円)の賦課決定を取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨

第二、原告の主張

(請求原因)

一(1)  原告は、昭和四〇年三月一三日、被告に対し、昭和三九年分の所得税につき所得金額を金二五七万一、五〇〇円、所得税額を金四九万五、二一〇円とする確定申告をした。

(2)  しかるに、被告は、原告に対し、昭和四一年一月一八日付をもつて、原告の昭和三九年分の所得金額を金五七一万五、七九〇円、所得税額を金一六五万四、三四〇円とする更正処分及び過少申告加算税を金一万一、九〇〇円、重加算税を金二七万六、三〇〇円とする旨の賦課決定をした。

(3)  原告は、昭和四一年二月一七日頃、被告に対し、右更正及び決定を不服として異議の申立をしたところ、被告は、同年四月二八日、これを棄却する旨の決定をなした。

(4)  そこで、原告は、これを不服として、同年五月二七日東京国税局長に対し、審査の請求をなしたところ、昭和四二年六月二〇日、同局長は前記更正処分および重加算税の賦課決定に対する審査請求はこれを棄却し、過少申告加算税の賦課決定は、その一部を取消す旨の裁決をなし同月二二日原告に通知した。

二、しかしながら、本件更正処分は、次の理由により違法である。

被告は、本件更正処分において、原告の一時所得を金三八九万七、五〇〇円と認め、その根拠として、原告が、訴外京浜化学工業株式会社(以下単に京浜化学という)より賃借していた杉並区荻窪四丁目四八番地所在木造モルタル塗二階建店舗一棟建坪階下階上共一六・五二平方メートル(以下単に本件店舗という)を、昭和三九年四月一〇日、右賃貸借契約を合意解除のうえ、右京浜化学に明渡す際、同社より、立退料として金八〇〇万円を受領したと主張するのである。

しかしながら、原告が、本件店舗の立退料として、京浜化学から受領した金員は、金三〇〇万円であつて、金八〇〇万円ではない。

従つて、被告が、本件更正処分において、原告の一時所得を金三八九万七、五〇〇円と認めたのは、原告が京浜化学から受領した立退料の金額を誤認したことによるもので、違法であり、而して、原告に対する本件重加算税の賦課決定も右一時所得額の誤認に基づくものであるから違法であり、本件更正及び決定は取消を免れないというべきである。

よつて、本訴請求におよんだ。

第三、被告の答弁ならびに主張

(請求原因に対する答弁)

第一項はすべて認める。

第二項は争う。

(被告の主張)

一、本件課税の経緯は、別表のとおりである。

二、被告が、本件更正処分において、一時所得として課税した根拠は次のとおりである。

(一) 本件店舗の敷地である宅地は、訴外下村太郎の所有土地であつたが、同人の経営する同族会社京浜化学が右土地を借り受け建物を建築所有していたところ、昭和三四年五月右建物を原告に賃貸し、原告は店舗として使用していた。

(二) 同三九年四月、下村は東京都住宅公社と共同にて中高層耐火建築物(通称公社荻窪団地)を建設するため、京浜化学の立退を決定し、同会社は原告に立退を要求し、その交渉をはじめた。右交渉の結果、右会社と原告との間の賃貸借契約は原告において金八〇〇万円の立退料の支払を受ける約束で合意解除された。同日、下村の経営する同族会社文化堂株式会社(以下単に文化堂という)は東洋信託銀行から金一、九〇〇万円を借入れ、そのうち八五〇万円を下村および京浜化学に対する貸付金となし、同社振出の券面額六〇〇万円の小切手を原告の要求のとおりの同銀行本店振出の預金小切手と交換のうえ、同銀行本店にて原告に手交し、なお残金二〇〇万円は同一三日、再度預金小切手と交換のうえ同本店にて原告に手交した。

右小切手六〇〇万円については同月一一日に、二〇〇万円については同月一三日にそれぞれ第一裏書人千代田区須田町一の六田中里夫の名義により現金と交換されているが、右田中重夫なる者は前記住所地に居住しておらず架空名義であると認められた。

(三) 右立退料は一時的なものであり、かつその発生原因が営利を目的とする継続的行為から生じたものでなく、労務その他の役務の対価としての性質を有しないものであるから、旧所得税法第九条第一項第九号に規定する一時所得に該当するものと認め、八〇〇万円から原告が申告した必要経費五万五、〇〇〇円を控除し、なお、一五万円を特別控除した金額七七九万五、〇〇〇円の一〇分の五に相当する金額三八九万七、五〇〇円を一時所得の金額として課税した。

以上の理由により、被告の本件更正処分には何ら違法の瑕疵は存しないから、原告の本訴請求は理由がない。

第四、証拠

原告は、甲第一、二号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一ないし第四号証の成立はいずれもこれを認め、同第五号証の成立は否認すると述べた。

被告指定代理人は、乙第一、ないし第五号証を提出し、証人下村太郎の証言を援用し、甲第一、二号証の成立を認めると述べた。

理由

一、原告主張の請求原因第一項の(1)ないし(4)(すなわち、別表の本件課税の経緯)については、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、本件の争点は、被告が、原告の昭和三九年内の所得に属する一時所得の原因として主張するところの、原告が訴外京浜化学から立退料として受領した金員が、金八〇〇万円か否かということにあるから、以下この点について検討することとする。

(一)  先ず、原告が、訴外京浜化学から立退料を受領するに至つた経緯として、本件店舗の敷地である宅地は、訴外下村太郎の所有地であつたが、同人の経営する同族会会社京浜化学が右土地を借り受け、建物を建築所有していたところ、原告が、昭和三四年五月から、右建物を賃借し、店舗として使用していたこと、同三九年四月、右下村は、東京都住宅公社と共同で、中高層耐火建築物(通称公社荻窪団地)を建設するため、京浜化学の立退を決定し、その交渉をはじめたこと、そして、右交渉の結果、京浜化学と原告との間の本件店舗に関する賃貸借契約が立退料の支払を受ける約束で合意解除されることとなつたこと等の事実については、原告はこれを明らかに争わないから自白したものとみなす。

(二)  ところで、成立に争いのない甲第一号証によると、本件店舗に関する賃貸借契約を合意解除するに際し、訴外京浜化学が原告に支払うべき明渡費用(立退料)は、金三〇〇万円であるとの記載があり、原告本人尋問の結果によれば、右記載にそうような供述もある。しかしながら、右記載および原告の供述は、成立に争いのない乙第一ないし第四号証ならびに証人下村太郎の証言にてらし、以下の理由によりこれを措信することができない。

(三)  すなわち、成立に争いのない、乙第一ないし第四号証ならびに、証人下村太郎の証言をあわせ考えると次の事実を認めることができる。

(1)  本件店舗敷地の所有者であり、かつ、京浜化学の社長でもあつた訴外下村太郎は、昭和三九年四月初の頃本件店舗の賃借人である原告から店補の明渡を求めるため、原告に、移転先を探させ、その移転費用についてはできるだけ協力することを約束していたこと。

(2)  不動産取引業者である原告は、移転先を探すべく、努力したが、適当な建物は見つからなかつたこと。同月八日頃になつて、原告は下村太郎に対して本件店舗と同程度の店舗を新規に賃借するには、敷金、礼金として、金七〇〇万円から八〇〇万円を必要とする旨告げ、同月一〇日下村太郎との間に立退料を八〇〇万円とする約定が成立したこと。

(3)  京浜化学の代表取締役であつた下村太郎は、同人の経営する同族会社文化堂を通じて、訴外東洋信託銀行から、本件店舗の立退料支払のため、金一、二〇〇万円を借用したこと。

(4)  訴外下村太郎は、立退料八〇〇万円を、二回にわたり、すなわち、昭和三九年四月一一日に 六〇〇万円 四月一三日に二〇〇万円を、訴外東洋信託銀行本店の営業部事務室においていずれも、原告の希望により、右訴外銀行の横線なしの預金小切手で原告に手交して支払つたこと。

(5)  訴外京浜化学は、第九期(自昭和三九年二月一日、至昭和四〇年一月三一日)の決算報告書において、原告への立退料として金八〇〇万円支出した旨記載していること。

(四)  そして、原告本人尋問の結果を右認定事実と対比し検討するに、

(1)  原告は、不動産取引業者であるにもかかわらず、本件店舗の立退料の相当額について積極的にこれを主張せず、終始、右下村太郎の提案に追随し、立退料の額三〇〇万円もはつきりした目安もないまゝに定まつた旨供述するが、およそ自己の立退料の額が決定される経緯としては、その供述は、原告の職業からみて著るしく具体性を欠くのみならず、原告がなぜにそのような態度をとらなければならなかつたかについて合理的な理由を見出すことはできないし、

(2)  また、原告が、金三〇〇万円を受領した方法および場所についての、同人の供述は、原告が本件処分方の係官に陳述した事項を記載した乙第三、四号証における記載と相異し、一貫せず、信用性が低いものと考えられる。

(5)  以上の点を総合すると、訴外京浜化学が、原告に支払つた立退料は、金八〇〇万円と認めるのが相当であり、右認定を覆えすに足る証拠は他にない。

三、そうだとすると、被告が、原告の訴外京浜化学より受領した前記立退料金八〇〇万円を旧所得税法第九条第一項第九号に規定する一時所得に該当するものと認めて、所定の必要経費の控除、特別控除をしたうえ、本件更正処分および過少申告加算税ならびに重加算税の賦課決定をしたのは正当というべきであつて、これと異なる前提にたつ原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用のうえ主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 猪方節郎 裁判官 小木曾競 裁判官 山下薫)

(別表)

<省略>

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